メモ帳と隔離所

ゲームとかラノベとかの話をするブログ

サクラノ詩:感想


 全体として、ひたすらに気分のいい作品であった。個別のストーリー自体は結構好みがでるように思うが、少なくとも自分の趣味にはストライクなものばかりで非常に気分良く読み進められた。最初の方は割と投げ出されるような感じで始まるところもあり、物語に入って行くまでにちょっと時間がかかったものん、ギャグの飛ばし方などは結構良かったので、退屈ということもなかった。櫻達の足音の段までいくと話も一気に盛り上がり、そんなこと考えもしなかったものであるし。その後も熱いところはとことん熱いく、物語への引き込ませ方は凄まじかったと思う。
 ギャグが好みと書いたが、会話のテンポ自体がそもそも好み。キャラも可愛かったりしたので個別ルートが退屈ということも少なかった。それどころか、個別が気に入り過ぎたが故に嫌なフラグが立ってる終盤のルート(言ってしまえばⅤの辺り)は読み始めを大分ためらっていた節さえある。読んで見たらそんなこと言ってる場合じゃねえって感じで最後まで駆け抜けたものなんだけれども。
 作品の内容に触れると、芸術関係の話が物語全体に大きく横たわってはいて、何回っぽく作ってるところもあるにはある。ただ、難しいこと抜きに「幸福と才能」とか、「生への肯定」とか「何をもって幸福とするのか」とか、そのへんの話が好きな人にはぶっ刺さる内容になってると思う。演出周りだとまず音楽が良い。個別それぞれの別エンディングもよかったし、オープニングのインストアレンジをここぞってとこで流してくるやつはやはり良いもんだ。
 ただ、部分的に雑だなって思ってしまう部分がないわけではない。細かくは個別のところで言うけれども。
 

以下ネタバレなど含む個別評とか。割とプレイ中に書いた文もあるのでちょっとごちゃってはいる。

 

 

 

 

 

 

 

 

稟ルート
 男子高校生思考系ヒロイン。ついでにラスボス系ヒロインっぽさあるよなって思ったけどそうでもなかった。キャラは結構好みの部類だったので楽しく読むことが出来た感じ。あと2人の関係性が一方が欠けてしまうとどうしようもなくダメになってしまいそうなところとかもすごく好みでした。
 本編自体は淡々としているというか、比較的よくあるシナリオって風ではあった。敵の作り方はちょいと雑だなとか思ったけれど、こういう割と無理矢理な解決はそこまで嫌いじゃない。
 あとエンディングかっこよい。かっこよくない? 凄く好き。

真琴ルート
 天才に追いつこうとした、あるいは天才を完成させようとした物語。例に漏れず大好物である。あと台詞回しとその裏にある感情とかが割とぶっ刺さる感じで気分が良かった。展開は回りくどかったように思うけれど必要だったとも思う。この辺はなんともしがたい。
才能と折り合いをつける瞬間は寂しくも美しい。「これでいいのよ」は正直にいって最高だった。その前の愛と芸術は二者一択云々の話と合わせて。あれがあったから「これでいいのよ」は映えるのだと思うところ。
ここに限らずシーン単位で印象的なのが多いルートだった。コーヒーカップ褒めるシーンの色んな感情入り混じってる感じとかね。
 全体終わってから見ると、直哉の過去が一切絡んで来ない話ってここくらいってのもあって、特殊な立ち位置のルートではあると思う。

 こう並べるとやっぱりこの2つは才能に殉じなかった結果の幸せであるなとは思う。劇中にもある通り、「幸福の王子」が結構話に絡んでくるんだけども。そんな幸福の王子としてのあり方を少なくとも否定はしてないルート。でもそれが歪みになってるかっていうとそうじゃなくて、清々しい感じにはなってると思う。そしてこの時点で非常に楽しかったので別作品買おうと思ってた。明るい未来と、幸福と、才能はまた違うものだよね、って感じの話。才能に殉じた先の不幸とそうしなかった果ての幸福と、どちらも好きなのだけれどね。最初の2ルートは前者のものでした。

ただ、明るい雰囲気でごまかしているような節は所々で見られる。救済はあるが、本当に幸福だったのかまではわからない。というか直哉の感情が正直見えてこない。
少なくともこの時点では直哉が絵をやめた理由は部分的にしか明らかになってはいないだろうし、そう理解した上でその後のルートをどう転がしていくのかが楽しみであった。

里奈ルート

 めちゃくちゃ好きなルート。キャラ的にもストーリー的にも。ここで少し止まって周回してたレベル。前二つのルートでまあまあ楽しいじゃんってなってたところに思いっきり鷲掴みされた感じだった。
 この直哉って主人公他人が絡んだとき格好良すぎじゃねえかっていう感じのルートでもあった。全体は過去編メインで進行してくんだけども、まず夜の公園で出会って云々ってのがツボ押さえすぎであるし、そこで生を諦めてる風の子に希望をもたらすってのがあまりに好み過ぎた。容貌も好きだし口調も好きだったりしたので本当に素晴らしい。唐突に伝奇っぽくなったのはびっくりしたけれど。まあ割とよくあることだから気にするでもなかった。
 現在に戻ってからの話になると、稟が直哉を自分では幸せになれないって評したあとの啖呵の切り方とかも凄まじく好きである。こういうこと言ってくれるとその後を夢想するのが楽しみになるよね。
 オチはそっちに持っていくのかって最初は思ってたんだけども、これ全編通したあとだと直哉の共作周りの才能が継がれていってるのかな。そう考えても非常に楽しい。なおのことその後の夢想が楽しいルートである。

雫ルート
 
 ミステリアス系な妹のような何かヒロイン。なんだけど、ヒロインの話というよりかは正直設定開示に終始していた感じがある……まあそれ自体は別に構わないのだけれども、ルートと言っていいかはちょっと怪しい。過去の話を途中で挿入するって流れ自体は里奈ルートも近いところはあったけどこっちは過去話も割と親父の話に終始してたしな。現代の方も特に何事もなく物語が終わったということで。個別ヒロインルートとしては果たして良かったのかと思わなくもない。キャラ自体は良かったので、そういう意味では残念。
 ただ、話自体がつまらなかったか? と言われるとべらぼうに面白かった。男ども格好いいのもほどほどにしておけよ盛り上がっちゃうだろ。終始していると言ったものの伏線回収については見事そのもので、桜七相図と桜達の足音の関連とかめちゃくちゃテンション上がるものだし、それ以外にも色々な関連がとことん物語に引き込ませてくれた。この作品結構過去の出来事と今の出来事リンクさせてくるよね。

No matter No mind

 親父がやたらかっこいい話。いや本当にそこに終始してくると思う。この親があってあの子ありって感じである。


 立ち位置としては藍ルートなんだけど、色々扱いも異なってくるルート。核心に迫る話で、それまでの伏線回収とか、幸せな王子のあり方の是非とか、これまで強くは描かれて来なかった直哉の苦悩とかの話。正直凄まじくびびってて手が伸びなかったルートでもある。だってここまでで不穏な雰囲気出まくってるのだもの。
 実際のところは読んでてすごく気分が良かった。直哉がやる気出してからの流れとか本当にかっこよかったし、圭との会話で普通に泣かされた。ああいう会話だめだって。てか最近やってるゲームの親友ポジがだいたい強すぎる。 
 で、ここまでが分岐前の話。で、分岐直前から分岐後の話。
 分岐直前はまあこのままじゃ終わんないのなあって思ってたようん。って感じだった。やめてくれよまじで。どうすりゃいいんだよちくしょうって感じであった。プレイしてて1番しんどかったのはあのあたり。ここから分岐するんだけど、分岐の選択肢もまたきついったら。
 清々しい気分になるのがわからないを選択するほう。プレイヤーとしては直哉の選択を否定したくはなくて、しかし……って風。でもここでの選択が答えの保留っていうのは結構好みのものである。直哉が幸福であるためにはどうすればいいのか、なんて考えたけれども、そもそもそんなことを決めることは出来ないよね、って感じで、なかなか腑に落ちる結論だった。ここに限らず、それ以外のルートの皆のその後もプレイヤー側に委ねられてるところだろう。
 初回プレイの際にはちょっと選べなかったが、間違っていたって選択の方もこれはこれで好きである。少なくともこの時点においてこういう言い方できるのは藍だけだろうな。短くはあったけれども、キャラクターを描く面においてすごく良かったと思う。

 


  
 これにて完結ですと思ってたら続いた。立ち位置としては一つのおまけというか、Ⅴの選択のうち、片方のその後。美術部メンバーが居なくなって、随分さびしい感じなもんだと思ったけれども、それは杞憂だったようである。直哉はとことん周りの人達に恵まれてるよな。その時点で大分Ⅴで受けたダメージが和らいだもんである。蛇足と言われれば蛇足かもしれない物語ではあるけれども、少なくとも自分はこれがなかったらこの作品をここまで評価することはなかったと思っている。最後に持ってきてくれてありがとうと言いたい。最後の意趣返しは直哉のあり方が間違っていなかったと言っているようで、本当に熱い。


 というわけでルート語りが終わったところでキャラ語りもちょっと。

 御桜 稟
 このゲーム桜と櫻がキャラとか曲とか絵のタイトルとかで異なってくるからどっちだっけっていちいち調べてしまうな。
 というわけでさっきの書いたのだが男子高校生系ヒロイン。キャラとしては好みと書いたとおりで、個別シナリオは良くも悪くもエロゲっぽい感じがあると思う。大体主人公への高感度が高い輩が多い中で特に高い感じの幼馴染系キャラ。
 と、個別シナリオまではそんな感じなんだけれど、話を進めていくに従って各種設定が明らかになってく。問題は割とそのへんで、覚醒後の稟がどうすごいのかはともかくとして、どう変わったのかは正直良くわからない。続編を作るような感じの作りだったから仕方ないとは言え、Ⅵでもうちょっと会話があっても良かったようにも思うし、引っ張った割にはそんなに活かせてなかったかなって印象。直哉と圭の意思を継いだって言われてもなんともわからないのである。

 鳥谷 真琴
 主人公と過去に話がない唯一のヒロイン。稟がとか違った方向で良い子。ノリとか勘とか性格とか。主人公のことをとことん認めてて、信頼みたいなものを露骨に見せてくるキャラって良いよね。直哉が真琴の作品を褒めるところも、真琴が直哉の作品を評するところも両方めちゃくちゃ好きである。そういう意味ではⅥで出てくるシーンも良かったよね。ああいうの見せられると非常に嬉しくなる。なんかカーツーっぽい感じな。他のキャラでもああいうの見せてくれないかなって思ったりしてしまった程である。

 氷川 里奈
 個人的ベストキャラ。口調と性格と容貌と立ち位置とシナリオが全部おれ好みだった。完璧である。こういう生になんら希望持ってない子が他者を巻きこんだり、あるいは生に希望を抱き直すの本当に好き。あとたまに出てくるぐるぐる目の立ち絵とぐるぐる目するような墓穴の掘り方するシーンとかが好みだったりする。里奈に限らずではあるのだが、ルート確定した際の迷ってるとこ迎えにくるシーンとかもいいよね。
 妹組が居た関係がわからないけども、Ⅵには登場しなかったのが非常にさびしい。続編での登場をめちゃくちゃ待ってる。掛け合いだけ見せてくれればルートは夢想しますんで。

 河内野 優美
 出てくると会話が楽しくなる潤滑油のようなキャラ。レトロウィルスのくだりはたいへん笑わせていただきました。
 とはいえギャグ一辺倒でもないのがこのゲームでもあり、里奈ルートは関節的には優美の成長物語としての側面もあるよね。ラストの悪友っぽい会話とかいいよなやっぱり。

 夏目 雫
 ルートが実質的に親父ルートっぽくなってしまった子。キャラ自体はよかったんだよな本当に……。色々あって部屋に転がり込んでくる流れとかおれ好みだったし。でもそこ止まりになってしまったって印象。Ⅴの授賞式以降の会話とかもなかったしなあ。設定先行になってしまったところは否めないと思うところである。

 夏目 藍
 ⅤとⅥは藍ルートというよりは圭含めた夏目家ルートって感じもあるところ。藍が担ってるものも恋人云々の話より家族愛とかその辺だよね。でもって、そのへんの話を描くに当たって必要な物を持ってたし、綺麗に描ききっていたキャラであると思う。上にも書いたけど、少なくともあの時間軸において、直哉にあの言葉向けられるのは藍だけだったよなあ。ここまでストーリーと噛み合ったキャラ造形してると最早突っ込むのも無粋って感じ。

 草薙 総一朗
 凄まじく格好いい親父。
 なにかに付けて影響が有りすぎるキャラだったりもする。このゲームのシナリオ、頻繁に過去の再演というか意趣返しというかってことが起こるので、続編でこの夫婦の死の再演みたいなことがなければいいと思う。でも水菜の死の再演っぽいことはもうやってるか。どちらにせよ進んで見たいものではない。

 草薙 水菜
 直哉の母。登場は親父の回想のであった当初のみだったりするからなんとも言えないところではあるキャラだけど、如何せんかわいかったので仕方がない。正直この夫婦の話はもうちょいみたい。終わった話ではあるとは言え。

 夏目 圭
 幸福な王子のツバメ。泣き所を用意してプレイヤーを殺しにくるエロゲ親友キャラの鑑。Ⅴルートの序盤を担うキャラで、あのへんの会話はとことん心地が良い。話が進まないとは言え死んでほしくなかったなあ。別ルートでやってるらしい海外遍歴をみたいキャラでもある。美術部勢といい家族といい教え子といい、本当に直哉は良い奴らに恵まれてるよなあと思う次第。 

 明石 亘
 直哉の共犯者だったり、直哉が共犯者になったりする胡乱な先輩。おちゃらけてるような感じで一本線が通ってる感じのキャラはやはり良いもんである。それだけにその後は笑った。成長後の掛け合い満たさでは里奈に継ぐ感じのキャラである。続編でもひょっこり出てきてほしいな。
 
 フリッドマン
 行動原理が金って男。でもそれだけじゃねえよなあって気になる言動が魅力的なキャラでもあった。「Damn it!」はある種その象徴的なシーンだよなあ。芸術家というより金って目線から見るキャラとしても良かったし、それに加えて端々から熱さのあるキャラだったと思う。

 長山 香奈
 サリエリっぽかったりそうじゃなかったりする人。悪役をやらされたり発破かける役やらされたり忙しい。でも才能の話を絡めてくる上でどうしても必要になるキャラではあるよね。同じ才能って事がキーになってくる真琴とはぜんぜん違う方向性。どんなに生き汚くても言葉の端々に好感を覚えさせられてしまうよなあ、やっぱり。作品全体に色んな意味での保留って言うような雰囲気があるとはいえ、惜しむらくは彼女の結末が語られなかった点。直哉の意趣返しも気分良かったけど、何らかの形で彼女の作品というか、まっとうな対決みたいなものは見たかったところ。直哉ってやつは対決しようとすると相手の作品飲み込んじゃうから良くない。それが良いんだけど。書いてて思うのだけれどあまりにも続編に期待することが多すぎて大丈夫か。

 咲崎 桜子
 続編キャラの顔出しって側面は強いよね。新生美術部全体に言えることだけど、こんな教え子らが集まってくれてるのはプレイヤーからすると感無量というほかねえよなあ。
 この子自体の話はまだ始まってもいないけれど、陸上が出来なくなったって辺りに直哉っぽいところ感じはするよね。その辺重ねてくるんかなそれとも別側面から行くんかな。何はともあれ楽しみなことこの上ない。

 草薙 直哉
 本当はもっとキャラいるけど流石にこの辺で。本作主人公。前方位フラグ建築機を搭載した幸せな王子。最初は愉快なやつ程度だったけど、物語が進行していく内に色々評価がかわってくる。幸せな王子云々の話と彼の性格が繋がってくると本当にこいつは幸福なのか?って気にもなるし、飄々としているように見えて他者との才能差に諦念を見せたりするとことに人間味もあったりする。何度も言ってる感じになるけどもその辺含めて見せられた上での最後の選択肢はやっぱり重いものであるし、その結論の保留した先のその後のお話であんな物を見せつけられたら本当にこのゲームをやっててよかったって気分にもなる。誰からも見放される王子は居なかったということで。

 思っていたよりも長くなってしまった。色々書いたけれど、総評としては疵がないわけではないけれども、それを補って余りある名作だったということで一つ。何はともあれ次回作が楽しみでならない。
 
 というわけで自己満足の塊はこれにておしまい。里奈のSSを頑張って書く作業しますね。