メモ帳と隔離所

ゲームとかラノベとかの話をするブログ

眠っていたデータファイル 1

『203号室』『夜』『十二月』

 

 

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 203号室前にたどり着くのに、さほどの時間はかからない。大通りから少し外れた道を進めば見えてくる、小さなアパートを目指せばよかった。自然と早足になるのは、あまりに今日が寒かったからだ。防寒具には金をかけろ、日用品は極力勝手の良い物を使え、そしてゲームと漫画の新作は発売と同時に買えと両親に厳命され育ってきたので、コートマフラー手袋と完全防備であるのだが、冷気はそれでも隙間を縫って体を震えさせる。
 寒さに耐えつつ帰宅後にやることを考える。なにはともあれ食事ではある。それから中断しているゲームでもすればいいだろう。多少長引いたバイトの疲れなど、正直こうしている間に飛んでしまう。我ながら安い人間だ、気付けばもう眼の前までた。とっとと部屋に入って暖をとろう。階段を駆け上がる。最奥の部屋の前まで行く。鍵を空けて中に入る。
「ただいま」
 居間の方の電気は点いているようだった。返事は無かったが、彼女はいるのだろう。靴を揃え、マフラーと手袋を外して鞄に入れつつ、そのまま奥に入る。
 室内に入った時点で大分寒さは薄れたものだが、奥の部屋はそれ以上に暖かかった。家をでるときと多分同じくらいか、帰宅時の音には気づかなかったようであるが、流石にここまで入ると彼女も気づいたらしい。こたつの中に両足を埋めたまま、こちらを向いてきた。いつもならここまで暖かくしていると些か電気代が気になるものだが、今日はそんなことを言ってはいられない。むしろこのぐうたらな妹に賛辞を送りたい気分だった。
「おかえりなさい」
 あくび混じりの、凄まじくのんびりとした声を返しながら、彼女は体を起こす。長髪がところどころ荒れている、寝癖のような髪。いや、ようなというのはおかしい、そのものだ。見るに堪えないというほどではないが、軽く整えると小奇麗になると知っているだけに妙な感じである。もっとも、目を覚ますと割とすぐにもとに戻る。我が妹ながら、よくわからない髪質である。
「ただいま。随分良く寝てたことで?」
 鞄を部屋の隅の方に置き、コートをハンガーに掛ける。返答を待たずに洗面台へと向い、手洗いやらなにやら。この時期、風邪の予防はしすぎるにこしたことはない。
 戻ってくると、座ったまま伸びをしていた。目覚めの儀式である。それを見やりながら、こたつへと入った。ちょうど対面の位置。
「そもそもですね、兄さんが連絡返してくれないのが悪いんです」
「連絡?」
 慌てて端末を取り出す。確かに未読を示す通知が一件。
「なるほど」
「なるほどじゃないですよ。バイト終わったら確認してくださいよ。待ってたんですから」
 律儀に待っていてくれたのはありがたい。でも結果として炬燵で寝るのは体壊しても知らんぞ。言わないが。
「外が寒すぎて端末取り出す気力がなかった」
「凄く雑だけど有り得そうな返答ありがとうございます」
 不機嫌っぽく言う。いいじゃないか、別に急ぎの用でもあるわけじゃあるまいし。
「まあ、今度からはちゃんと見るよ」
「いつもそう言うじゃないですか。もう」
 怒っているわけではない。ただ単にこやつは食い意地が張っているだけなのである
「兄さんが帰ってこないと夕飯が食べられませんから、私としては待たざるを得ないんですよ」
 それ見たことか。その癖自分では料理が出来ないのだから始末に負えない。
「もう少し暖まらせてくれない?」
「いやですよ。というかバイト長引くならいってくれればなんとでもするのに」
「バイト長引くかどうかなんてその場でしかわからんよ、そこは許せ」
「お願いしますよ……お疲れのところで申し訳ないですけど、明日その他の家事はやりますから」
「それはいつもやってくれてるじゃない?」
 料理担当と料理以外全部というのもわけがわからない分担であるといまさらながらに思う。元はと言えばおれが掃除など雑であるのが悪かったのだが。 
「こういうのは気分的なものなので」
「たまにおれはお前のことがわからなくなるよ。さて、夕飯だよな」
 こたつの中から腰を上げる。食事を作らされてはいるが、別段料理上手というわけでもない。ナヤカがあまりにそのあたりが致命的に過ぎるので、消去法でこちらに回ってきている次第だ。滅茶苦茶に凝ったものは作れない。最近は大分レパートリーも増えたが、それでも一般程度だろう。
 一人で食事を作る間は適当でもよかったのだが。なんだかんだ、喜んでくれる人がいるというのは嬉しいものがあって、上達の助けになるらしかった。
「そういえば、おれが居ない間になにかあった?」
「んー、特になにもないですねー。強いて言えば兄さんがやってたゲームクリアしちゃったってくらいでしょうか」 
 悪戯っぽくそんなことを言う。くそう、今日暇であれば先にクリアできたってのに。このところバイトに入ることが増えていけない。
「いや、いいけどさ。ネタバレ厳禁でお願いします」
「いつも通りって感じですねえ。まあ良かったとだけ言っときます。それと洗い物等々は済ませておきましたよ」
「いつものことながらだいぶ助かる」
 冷蔵庫の中は思ったより豊富だった。多少買い物をサボってもどうにかなるラインだろう。安い時に買い置きしておいた中華麺を取り出す。
「そんなに手の混んだものじゃない方がいいよな?」
「お腹空いてますしー。早い方が嬉しいですかねえ」
「了解。ちょっと待っててくれな」
「じゃあ私はもうちょっとぬくぬくとさせてもらいますね」
 流石に良いご身分なもんだと思ってしまう。思いながらも、手は止めない。二人分の食事を用意するのももう手慣れたものだった。まあ今日はそこまで手の込んだものを作る気もない。二人分の焼きそばをちゃちゃっと用意しておしまい、ってところだ。
「いやー、こたつの中にいるだけでご飯が出てくるってのはいいもんですねえ」
「誰かのせいでこたつしかなくなったからな。全く」
 焼きそばを載せた皿を置きつつそんなことを言う。突っ伏していたナヤカが顔を上げる。穏やかというか、怠惰というか、そんなものが顔からにじみ出ている。なにぶんこたつのなかは人をダメにする。熱と一緒にそういう成分が出ている。これは仕方がない。おれもなかに入る。食前の挨拶もそこそこに、食べ始める。
「いやー、その節は流石に申し訳なかったですねえ。でもほら、こうして兄さんもこの温もりを享受できるわけですし。今日はここから出る必要もないでしょう?」
「食器洗うのとかに出るのも億劫になるし」
「あー、まあそれはやりますよ。兄さんバイト終わりじゃないですか、これ以上働かせるのも嫌ですから」
「え、いや別にいいよ。家事の類ほぼほぼ片付けてくれたし」
「まあまあ。遠慮せずに。ゲームの続きでもどうぞどうぞ」
 珍しい。いや、いつも家事はやってくれているしそれも嫌々ってわけでは無いのだが、そういう時は何も言わないでやるのがこの妹である。
 まあいいか。やってくれるなら別に。
「んー、じゃお言葉に甘えることにしようかな」
 そんなことを言いながら箸を進める。なんの変哲もないソース味。疲れた体に濃い味は効く。対面に置かれた皿を見ると、もう最後の一口まで進んでいる。見慣れたものではあるが、相変わらずの健啖家っぷりである。
「ごちそうさま」
「いつもながらお早いことで」
「今日もおいしかったですよ」
「お前さん何出してもそれ言うじゃんか」
「まあまあ、そのへんは気にしない方向で」
 おれの焼きそばは残り半分ほど。別に急いで食べるでもないがなんとなく意地になってしまう。視線を移したナヤカがテレビを点ける。ニュース、バラエティと適当に番組を回していく。そのうちに「あ、これこれ」なんて言い出す。目当ての番組に当たったらしい。どうやら映画のようである。男二人が車にのってパトカーやらなにやらから逃げるシーン。
「知ってる映画?」
「前にレンタルで。そういえば今日やってるなあと」
 それを眺めながら、ナヤカが口を開く。
「今日クリアしたゲームなんすけど」
「映画の話じゃないんかい」
「いや、知らない映画の薀蓄とか流されて楽しいですかね?」
「まあ怪しい。でもネタバレはやめてくれよ」
「しませんって。どんだけこの前のこと根に持ってるんですか……あれ中古店で買ってきたやつですよね。今度新作出るらしいと聞きまして」
 ああ、道理で。
「なんか今日色んなことやってくれんなと思ったらそういう」
「やだなあもう、いつもやってることですよ」
 微笑みながらそんなことを言う。いやいつもやってくれてるのは本当なんだが、今日のはいやにわざとらしいじゃんよ。言わないが。まあどうせ買うつもりではあった。 しかしそれではどうも面白くない。
「まあ買ってもいいけど……」
「やりい! じゃあ楽しみにしてますよ!」
 意地悪の一つでもしてやろうかと思ったが、やめる。なんとなく、この場にそれは似合わないようにしたからだ。先ほどとは目に見えて機嫌がよくなった妹の顔を曇らせるべきではないだろう。

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『203号室』
 郊外のアパートの一部屋。交通へのアクセスはそれなりだが家賃が抑えめで、上京してきた大学に通う生徒が何度か入れ替わり立ち代わり入居している。風呂付き。
 最後に入居していたのは羽松コウ。私立大に通う学生であり、ニ年前の春先に地方から上京してきた。
 一人暮らしであったことが確認されている。
 なお、現在該当場所は存在していないことが確認されている。よって当記録は今後の更新を凍結する。

『羽松コウ』
 郊外のアパートに住む二十歳の学生。家族構成は父と母と彼の三人。大学に出るにあたり上京し、一人暮らしをしていた。
 
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