メモ帳と隔離所

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イリヤの空、UFOの夏 雑感

 中学2年の夏休み中、ぶっ通しで先輩のUFO調査に駆り出されていた浅羽は、最後の夜に一人で学校のプールに泳ぎに向かう。そこには先客の女の子がいて、あれよと言う間に泳ぎを教えることとなり、そして女の子の手首には金属の球体が埋まっていることに気付き……
 そんな冒頭から始まる物語。その後転校してきた女の子、伊里谷やハイスペックで奇人な先輩、水前寺が主に話を振り回す、夏休みの延長戦のようなドタバタ活劇。原チャリで突っ走ったり、マイムマイムを踊ったり、大食い対決を繰り広げたり、といったイベント群を驚くべき解像度で打ち出してくるその手腕は実に見事で、きっとこの夏が終わらなければいいと、真に思う。思わざるを得ない。
 だからこそ、最終巻で描かれる終焉が、死に向かう夏が、帰還の後の長袖のシャツが痛々しくてどうしようもない。序盤のひどく脆い全能感から絶望的なところに転がり落ちていくあたりも、わかっていたはずなのにやるせなさが凄まじい。タイムマシンのあたりとか表現やシーンの綺麗さも相まって感極まっていた、頼むからどこかに救いよあってくれって思いから生まれた空想と、南の島の幻想が重なってしまって目を背けたくもなる。
 ただ、何かを成すかどうかは別にして、それでもあがいたことは間違いじゃないはずで、そんなどうしようもなく少年だった彼と不可逆の夏のお話。
 今でも鮮明に思い出せてしまうあたり、その印象がいかに激烈であった事かと思ってしまう。本当に良い作品であった。
 もうUFOの夏はこないけれど、UFOの日は今年もまた巡ってくる。