メモ帳と隔離所

ゲームとかラノベとかの話をするブログ

小説感想:いまさら翼といわれても

 待ちに待ったと言っていい古典部の新作である。もう五年は経ってる。よくぞ出てくれた。

 なお私はミステリを好んで読むわけではなく、その知見もない。よってこの物語をミステリの側面から読むことはない。

 さて、全体の構成としては「遠まわりする雛」に近い短編集だ。あちらが高校入学時からの1年間の物語であったのに対し、こちらは「ふたりの距離の概算」前後から同年の夏休み前までの物語となる。アニメだと「連峰は晴れているか」は1年の時の話だったし、伊原が漫研を辞めたのは概算より前のはずなので、まあそのあたり。正直連邦は収録のタイミング逃した感あるよね。

 閑話休題。そして以下は軽めのネタバレにあたる。

 

 

 今回の短編集。全体を通してみると、古典部の皆の掘り下げと、皆の変化を描いていると言えよう。掘り下げについては全員のスタンスを描いたクドリャフカの順番の続きともひとつ言える。古典部の皆の変化については、人物たちの関係性を書いていった概算とは異なり、今作は個人個人の変化が題材に上がると言える。 もっともな試みで、成功していると言っていいのではないか。これまでも折木の省エネ主義か徐々に変化している風を出すことはあったが、大まかに言えばその拡大版である。

 そういうわけで、これまで古典部シリーズを楽しんで来た人間にとっては相当に楽しめるものである。人物たちの変化を見守るのっていいよな……。

 というかそろそろシリーズとしてでしか成立しなくなってくるしナンバリングとか入れたほうがいいんじゃねえかなあとか、思わなくはない。割と前から言われてるけど、今作はそれが顕著。

 

 以下は個別作品語り。ネタバレがどぎついので読んでない人は非推奨。

 

 

 

 

 

 

 

 

 箱の中の欠落

 選挙の票が不当に増やされてるって問題が発生。何故そうなったのかを考えてほしいと福部が折木に頼む話。

 折木が焼きそば作ったりする。その後友人と2人でラーメン食ったりする。会話のテンポのよさについつい俺はこの空気に帰って来たなあ、という感じにさせられる。

 一方そこで終わらないのが今回なので。先のスタンスの話をするのであればこれは折木のスタンスの再確認の話。そうである一方で、福部の変化の話の一端である。

 といっても、今作は何故福部が変化したのかまでは描かれない。折木から見た福部の変化の話で、 一つのことに肩入れするようになったりとかってことに突っ込むシーンがあるのだが、折木も大概だけど、福部も自分のモットーに行動を制限されてる節がかなりあるよね。

 あとこいつら人助け好きである。案外中学時代はよくある児童書ばりの活躍をしていたのかもしれない。

 

 鏡には映らない

 

 伊原が主役で視点。延々と嫌われて来た折木がなんで嫌われてたのかを知れる話。どっちかというとこいつは関係性の変化より。同時に伊原のスタンスがちょっと強めに出る感じ。

 だんだん明確化してくるのだが、この折木って男さすがに他者の悪意からの耐性強すぎませんかね。いままでは結構善意に絆されてることが多かったので表には出てなかったけど。他者への興味のなさを割とギャグとして見てたけどここまでくると相当である。褒めてる。

 もっと言うと折木は高校入学以来は「愚者のエンドロール」のときのような失敗こそすれ基本挫折してないんだよね。部員たちがなんらかの失敗をするクドリャフカの順番で、折木は唯一丸く収めた人だし。

 本人の予感もそんときあったけども、折木の順番もそのうち描かれるんだろうなあとうきうきする。

 脱線しすぎたので本編の方の話に戻る。折木のヒーローっぽさに拍車がかかる。割と身近な誰かが絡むと動くのかなこいつ。

 会ったら嫌いになるでしょうって発言はつい笑ってしまった。

 

 

 連峰は晴れているか

 

 初出が結構前。けども折木のスタンス描写に一役買ってる。

 前二つと総合すると多分自分が何もしなかったから誰かが不利益、不愉快を被ることとかは結構嫌うんだろうな。それが割と些細なことであれ。箱の中の欠落と、多分鏡には映らないでは誰かは直接関わってる相手ではないけどどうにかしようと動くし、今作は些細なことな上にもう会わない人だったろうけどもそんな風に動いたって感じなのかな。そう考えると「氷菓」の時に千反田の頼みを人海戦術を使えで一蹴しようとしたのは相当らしくないってことになるけど。

 

 私たちの伝説の一冊

 伊原視点再び。ついでに折木の中学時代の読書感想文が見れる。この読書感想文が解決の糸口になるけども、折木の出番はそれくらい。メインは伊原と福部の話。もっと言うと概算でさらっと書いてた伊原が漫研を抜ける際の顛末である。   まあこの辺はあの時点での折木が知らない以上伊原の視点にならざるを得ないのかもしれない。

 伊原の物語は多分ここからで、転機でもあるのだろう。すごい微笑ましい。なまじ行動力があるばかりに他人の面倒見ていることがなくなって、これからは自分のために行動していくようになるんだろうな、と。

 ところで、伊原が描く漫画に対して何か言う人が居なかったせいであんまり明らかにされていないのだが、彼女の漫画への評価が初めて出た話でもある。正直予想より強かったってのは否めない。謙遜もいいけど自覚もしろ。

 あと福部が頑張ってた。彼の場合「クドリャフカの順番」で出した結論は呪いじみてたし、それを吹っ切ったんだろうなあ。今一つ詰めきれないのはらしいっちゃらしい。

 

 長い休日

 ここまで影の薄かった千反田のターン。あと折木が朝飯を作る。

 内容としては折木のモットーがどうして生まれたのかって話。割と最近はこのモットーに制限されている節もあるのだが、別に根っこから省エネな人間では無いことが一応判明する。結構人助け好きな人間だったと。ちょいちょい見せてたイケメンっぷりはこっちの側面か。

 てかちょいちょい思ったけど折木くんかなり外堀埋まって来てるよね。いやそういう風に考えられる程度の表現しかしてないとも言えるのだが。周囲に遊ばれてる感すげえというか「わかってるわかってる」感凄い。

 でもってこれは折木の過去の挫折の話でもあったりするし。

 

 いまさら翼と言われても

 千反田のターン二つ目であり折木のターン。折木が冷やし中華を作って急いで食う。

 折木の外堀が埋まる二回目。これで親友と叔母さんに面識が出来たな! やったな! 完全に叔母さんの方は折木のこと千反田の彼氏かなんかだと思ってた節があったっぽくて面白い。

 それはそれとしてこれは折木のスタンス表明っぽくはある。でもそれよりも強く出てるのは千反田の話で、彼女の場合これまで依拠してきたものが完全にとは言わないまでも失われていることになる。

 正直なところ古典部四人で1番弱いところ持ってるのが彼女なんだろうな、とか思ったり。

 今回折木が出した結論は割と場当たり的で完全な解決にはならない。それは多分次巻以降の話。

 次巻はいつ出るのか……? 2年位のうちにでてくれればなあと思ったり。