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小説感想:彼女がエスパーだったころ

 彼女がエスパーだったころ
 「盤上の夜」を読んで以来、面白いもの書くな、と思いながら別作品を読んでなかった作家である。最初に書店で見た際はまだハードカバーで出たばかりの頃であったが、気付けば文庫化されていた。時の流れはあまりにも早い。何はともあれ、いい加減に読もうと思って買ってきた次第である。で、まあこの場でなんか書いてる時点でお察しの通り面白かった。間違いなく。

 

 ただ、正直どう面白かったのか自分でも咀嚼できていない部分があり、どうにも言葉足らずなところが出かねない。取り敢えずなんか面白いものが読みたいと思ったらちょっと候補に入れて欲しい。少なくともそれは確かに言える出来だったから。
 内容の話に移ろう。本作は疑似科学シリーズを謳う連作短編集である。それが正しいのか否かはさしたる問題ではなく、それに振り回される人間の倫理がメインの話。作品全体をSFのような何か、ミステリ的な成分が作品全体をとりまいており、築かれた物語はとことん不思議な読み口に仕上がっており、とことん飽きさせない出来になっている。
 ある程度個人的な感覚になってしまうが、この作者の文章もこの上なく好きである。淡々としていながら目を離せない文章が平時であるが、不意に見せる熱を帯びた台詞が非常に堪らない。読後感も抜群に好みである。
 個別の話に移って行くと、単純な出来としては「百匹目の火神」が非常に良い。なんというか、話の転がし方が凄まじい。あれよあれよという間に悪化する事態をとことんリズミカルに描いてのける。
 個人的に好きなのはロボトミーのような手術を扱った「ムイシュキンの脳髄」。内容はもちろん良いのだが、一言に乗っている一瞬の熱量が凄まじい。「盤上の夜」のときもそうだったけど、不意に見せる熱さみたいなものが素晴らしいなこの作家。
 単純に雰囲気が好みなのは「彼女がエスパーだったころ」と「沸点」になる。他に比べてなんとなく優しさが漂っていている。読後感も締め付けられるというよりはなんとなく緩やかであるし。
 別になんの欠点もないとは言いがたいのだが、総合して非常にいい短編であった。
というわけで作者の別作品買おうとしたらおいておらず、怒りの労働に向かった次第である。