メモ帳と隔離所

ゲームとかラノベとかの話をするブログ

月に寄りそう乙女の作法 雑感

 延々と遊んでクリアしてしまった。大変に気分がいい。


 正直に申し上げて名作である。エロゲオールタイムベストがあれば選出していいだろう。エロゲ初めてやるって人にも勧められる。やっぱり才能の物語は最高だ。そしてそれがなぜ面白いのか? どんな点が面白いのか? をわかっている。それが実に心地がよく、もうぶっ通しでプレイ出来るってもんである。テキスト全体も見ると、基本的に一言が足りているというか、フォローが上手いという感じ。プレイヤーが違和感を覚えるところに先の先を取って一言加えられていて、読んでいて不快感が無いどころか楽しさが非常に増す。バランス感覚が優れていると言う他ない。会話のテンポもめちゃくちゃ良かったから飽きがこなかったし、キャラクターはみんな立っている。個別の方でも話すが、演出周りも非常に優れている。ユーシェルートとルナルートの最後とか溜め息もの。

 


 エロゲにおいてお約束になりがちなところに理由を加えている辺りも手が込んでいる。個人としては別段そこに力を入れているから評価がどう変わるというわけではないが、丁寧な作りになっていると示す一助にはなっているように思う。
 一方の問題として、シナリオの出来がすべて良かったかと言われれば頷けないのも事実である。ルナルートとユーシェルートは頭ひとつ抜けている出来で、ここだけだったら大満足の出来であったのだが、瑞穂ルートは良くも悪くも普通であったし、湊ルートは正直とっちらかり気味である。湊ルートに関してはキャラが好きなあたり込でも普通止まりの出来って感じ。瑞穂はキャラもシナリオも好みとしては普通であることだし、あまり語るところはない。
 ユーシェルートとルナルートは本当に素晴らしい。この2つのルートだけなら今までやってきたゲームの中でトップクラスといえる。だから残りはこの話。


ユーシェルートの話

 単純に話の好みは間違いなくあった。才能の話は基本的に大好きであるし。ただ、それを差し引いてもシナリオ全体が素晴らしいものであったと言っていいだろう。特にコンテストのシーンの演出は神がかり的で、一瞬の輝きは度肝を抜くものがあった。そしてそれにつながるための細かなシーンの積み重ねが最高に愛おしいものであったと思う。無駄を完全に廃したシナリオというわけじゃないが、読み終えて思い返した時になんとなくそれまでのつながりを思い起こして「ああ、良かったな」と思えるのは実に最高の体験だ。これだからやめられない。
 あと全体で見て、主人公が一番かっこよかったのはこのルートかなって。そのへんも結構よかったとこかなと思う次第。

ルナルート
 ユーシェルートが才能の話だったのでこっちもそんなんかなと思ったけど違った。いやそこもないわけではない。何かを作る人にとって才能を認めてもらうっていうのは人格を認めてもらうことと同等かそれ以上に嬉しいもので、このルートはそういった描写が多々あったことは確かだ。それが才能の物語として(私が)あったら非常に嬉しくなってしまうものではある。
 ただ、真に感銘を受けたのはその部分ではない。別の要素でにこいつはすげえと唸らされるルートであった。いや実際は唸ってなどいなくて朝日とルナのコンビを眺めて終始ニヤニヤしっぱなしだったが、おれの心は常にやりおるって言ってた。というのも、ヒロインと主人公の魅せ方が個人的な理想のそれで、しかも抜群に上手かったからに他ならない。
 ヒロインの魅せ方っていろいろあると思うし、それがどんなキャラであるのかによって最適なものは異なってくるのだと思う。ただある程度共通しているものがあると思っていて、一つは「主人公との信頼関係の描き方」ではないかと。信頼関係と一口に言ってもいろいろあるし、私自身も完全に言語化出来ているわけではないので、イメージ的なものも多いのであるが、漠然と「こいつらならきっと大丈夫だ」と思える関係を見せつけてくれると最高に良いよなあと。で、このルートはそこについての描き方が完璧であった。象徴的なものは「ふざけるな!」から始まる一連の流れで、実に最高であった。つい目頭が熱くなってしまうよまったく。 
 少し脱線するが、共依存ってこの両者の信頼の延長線上にありません? そんなことない?
 で、もう一つもふわっとしていて申し訳ないのだが、主人公とヒロインにとっての聖域的な空間の描写である。主人公たちが幸福で、素で居られて、外敵の存在しない空間。帰ってくる場所のようなもの。これもまた主人公とヒロインを映えさせるものではないかと。直接的なものではないけれど、これがあるとないとでは、活かせるか活かせないかでだいぶ違う。楽しい日常を積み重ねる空間ってのは無いと作品に味が出てこない。そして何よりそれが失われてしまう瞬間、失うまで行かなくともそれが失われかける瞬間みたいなものがあると化ける。うまく言えねえなあ。少なくともこの作品における桜屋敷はそんな聖域、幸福な場所としての役割を果たしていたし、その活用法も非常に上手だった。
 それどころかこれらを活かすために遊星とルナもキャラを組んだんじゃないかと思うレベルである。単純にヒロインも強かったよね。主人公が攻略されてるの見てて楽しかったし。うーん、良いシナリオであった。はよアフターやりたいから届けって。